LEBRA 日本大学量子科学研究所 電子線利用研究施設
 施設における光源研究の現状
 各実験室の研究用装置の現状
 電子線利用研究施設へのアクセス
 施設内連絡先・構成員のリスト
電子線利用研究施設の概要

 日本大学は物質,生命,資源科学の広い学問分野を研究対象とする先端的な研究拠点を構築中です.日本大学電子線利用研究施設ではこの方向に沿って,高エネルギー加速器研究機構との共同研究により建設した125MeV(1億2千5百万電子ボルト)電子線形加速器を最大限に活用して,これらの研究に利用する光源の開発・高度化とその利用研究計画を推進してきました.
 このような中で,2000年度からこの研究計画が文部科学省の進める私立大学学術研究高度化推進事業の学術フロンティア推進事業に選定され,本研究施設はその研究拠点に位置づけられました.学術フロンティア推進事業に選定された「可変波長高輝度単色光源の高度利用に関する研究」は最初の5年間と引き続く3年間の継続事業の合計8年間にわたって進められました.これにより,本研究施設において世界の最先端に位置する光源とその学内共同利用が実現し,多くの利用研究の成果が生まれました.
 本研究施設では,高エネルギー電子線を基にして,自由電子レーザー(FEL),自発放射光,パラメトリックX線(PXR)を用意しています.これらの光源は超短パルスであり,光源を複合的にリアルタイムで利用できるシステムが完成すると,原子,分子における振動,共鳴,結合,相転移など,様々な状態の動的な振舞の測定が可能になります.
 また,これらの光源が波長可変で高輝度な単色光である特色を生かして,光化学反応,化学触媒光反応,生体組織光反応のメカニズムを明らかにし,半導体プロセスや新素材の開発に挑戦することが出来ます.
 本研究施設はこのような利用研究を促進するために,理学,工学,医学,農学を連結する学際的な共同研究拠点として,多種多様な基礎・応用研究を行える環境を整え,参加する研究者を積極的に支援します.



電子線利用研究施設の歩み

日大放射光共同利用計画の開始と加速器建設
 日本大学では理工学部,医学部歯学部,松戸歯学部,文理学部,生物資源科学部の共同で企画された,《電子線形加速器による放射光共同利用計画》(電子線利用研究センター構想)が1992年度より大学本部において予算化されました.これにより,1982年以来「パイ中間子によるがん治療計画」のために電子加速器の開発研究を行っていた,理工学部習志野校舎(現船橋校舎)の原子力研究所(現量子科学研究所)物理実験B棟の増築が決定し,総工費5億2千万円をかけて加速器設置建屋が1993年度末に完成しました.この企画は東北大学,電子技術総合研究所(現産業科学総合研究所),動力炉核燃料開発事業団(現核燃料サイクル開発機構)及び高エネルギー加速器研究所(現高エネルギー加速器研究機構,KEK)の研究協力を得て検討が進められ,1994年度には赤外から紫外領域の自由電子レーザー(FEL)を中心とした光源の共同利用実現に向けて,125MeV電子線形加速器の建設計画が実行に移されました.この計画ではKEKの放射光施設入射器用陽電子発生電子線形加速器の一部を転用することで加速器本体の建設費用を大幅に軽減し,安価な予算による高性能な電子線形加速器の実現を目指しました.このため加速器建設は,大学本部からの2億7千万円の他は,全て原子力研究所予算(関連学部分担金を含む)からの支出で実現することとしました.
 1996年度には日本大学とKEKとの間で「大強度電子線形加速器の高輝度化と大出力短波長自由電子レーザーの開発研究」に関する当初2年間の共同研究契約が結ばれ,物理実験B棟に加速器本体の移設が実現しました.これと平行してFEL発生装置への電子ビーム輸送ラインの建設も進められ,1998年1月に100MeVまでの電子ビーム加速に成功し,2月にはアンジュレーター自発放射光の観測に成功しました.この間,1997年にはこの加速器施設を「電子線利用研究施設(Laboratory for Electron Beam Research and Application, LEBRA)」と称することが原子力研究所運営委員会において決定され,正式に学内共同利用研究施設として電子線利用研究施設が発足しました.
 短波長のFELを実現するためには長パルス電子ビームが要求され,それには大電力RF増幅器であるクライストロンの長パルス運転が不可欠でした.しかし施設建屋の空間的な制約等から,利用できるクライストロンは出力パルス幅が数µsと短パルスの仕様であったため,出力パルス幅をFELが要求する20µsまで飛躍的に増大させる必要があり,その実現は容易ではありませんでした.1998年にはKEKとの共同研究契約をさらに3年間延長し,KEKからクライストロンの提供を受けながら長パルス運転実現の方法を模索しました.この結果,クライストロン出力RF窓の破損を避けてパルス幅20µsを実現するには,真空仕様となっている大電力RF立体回路系のRF窓付近における真空排気能力の強化が極めて有効であることが判明しました.2000年1月には立体回路系の真空排気能力強化を完了し,これによりようやくクライストロンの長パルス運転が安定に行えるようになり,加速器からの電子ビーム出力が増大し当初の目標であるパルス幅20µsのビーム加速が実現しました.しかし,この間に増大したビーム出力により,ビーム調整時に用いていた遮断型ビームモニターにより発生する放射線の強度も飛躍的に高まった結果,放射線照射によるFELアンジュレーター永久磁石の減滋を招いたことから,3月には永久磁石列を可視光〜紫外線領域用のものから新たに納入された近赤外線用のものに交換し,早期のFEL発振実現を目指しました.

学術フロンティアによる施設整備拡充
 2000年4月には電子線利用研究施設が文部科学省の私立大学学術研究高度化推進事業の研究拠点として選定され,学術フロンティア推進事業「可変波長高輝度単色光源の高度利用に関する研究」が5年計画で開始されました.この研究計画にはFELの高度化とパラメトリックX線放射(PXR)と呼ばれる現象を利用したX線源の開発,そしてそれらを用いた利用研究の推進が盛り込まれました.特にPXRをX線源として実用化する試みは世界でも初のことでした.
 学術フロンティア推進事業の開始に伴い実験棟を増築するため,2000年7月から約7ヶ月間加速器の運転を停止することとなり,この期間を利用して,加速器運転を容易にし性能向上を図るために大電力立体回路組み替え,高周波位相変動抑制などの改良を行うとともに,PXRのための新たなビーム輸送系の建設も行われました.この結果,FEL発生装置に導かれる電子ビームの性能が向上し,2001年5月には波長1500nmでのFEL発振に成功しました.しかし,電子ビームの安定性はまだ不十分で,FEL発振も飽和現象を確認するには至りませんでした.4月には,これまでの研究成果を基にKEKとの間で新たに「電子線形加速器の高性能化と自動制御システム並びに可変波長高輝度単色光源の高度利用に関する研究」の共同研究契約を結び,3年間の共同研究を開始しました.2002年度にはFEL発振の不安定の原因を追究し,クライストロンパルス電源や加速ビーム電流の変動,高周波増幅器の位相変動,FEL光共振器架台の機械的変形・振動等の不安定要因を取り除く作業を行いました.一方,研究施設での共同利用実験を円滑に進めるため,ビーム加速中でも実験室で作業が出来るよう放射線管理区域の変更申請を行い,2003年3月に施設検査に合格しました.これにより定常的な加速器運転が可能になりました.6月にはFEL光ビームラインの途中に,鏡を用いたコリメーター光学装置であるビームエキスパンダーを設置し,FEL発生装置と新実験棟の各レーザー照射装置の間の最長約50mを真空ビームダクトで接続し,平行化された光ビームの輸送を可能にしました.また,FEL発振のための調整を容易にするよう加速器本体と電子ビーム輸送ラインの各所に非遮断型ビームモニターを配置することで,電子ビームの常時モニタリングを実現しました.8月にはFEL光共振器の反射鏡を金蒸着ガラス鏡から銀蒸着金属鏡に交換し耐性を強化した結果,高強度のFEL発振においても短時間での鏡破損が避けられ,安定に発振が飽和するようになりました.10月にはレーザー出力・レーザースペクトルを常時計測出来るようレーザーモニターシステムを整備し,FELの共同利用実験を試験的に開始しました.その後,アンジュレーター用電子ビームダクトの交換により,最小磁極間隙をより狭く出来るようになり,発振波長範囲が長波長側に拡張しました.現在までに840nmから6750nmまでの波長範囲でFEL発振を実現し,レーザー出力は波長約1700nmにおいてモニターシステムの位置で最大60mJ/pulseを記録しています.この値は2856MHzでバンチした電子ビームにより発生したミクロな光パルス(パルス幅測定値は約0.1ps)の,マクロパルス長20µsにわたる平均値であり,ミクロパルス中のピーク光パワーとしては凡そ10MWに相当します.このような短パルス大出力の特性を有するLEBRAのFELを用いたアブレーション実験では,通常の半導体レーザーでは見られない特異な現象が報告されています.
 2004年3月には,FELビームラインの整備と平行して新たに設置したPXR用ビームラインについて放射線許可使用の変更申請を行い施設検査に合格し,これによりPXRの利用が可能となりました.4月には初めてPXRを実験室まで取り出して観測することに成功しました.その後現在に至るまで,PXRについての様々な観点からの特性研究によりその有用性の確認がなされ,約5keVから20keVの範囲の準単色X線を用いて特色あるX線イメージング法の開発などの利用研究が行われています.これらの光源開発の成果を発展させるべく,2004年4月にはKEKとの間で「電子線形加速器の高性能化とその高度利用に関する開発研究」について3年間の共同研究契約を結びました.

共同利用の推進
 電子線利用研究施設は共同利用施設として2004年度から本格的にマシンタイムの提供を開始し,学術フロンティア研究分担者等により多くの研究が推進されて来ました.2005年3月には5年間の学術フロンティア推進事業における研究成果を公表するため,理工学部船橋校舎において2日間にわたって総合研究成果発表会を開催し,口頭発表,ポスター発表合わせて52件の研究発表が行われました.また,この間の学術フロンティア推進事業における研究成果は,文部科学省に提出した研究成果報告書にまとめられています.
 学術フロンティア推進事業は2005年3月を以ってその期間を終了しましたが,2005年4月からさらに3年間の事業継続が認められました.これに伴い2005年度以降も引き続き学術フロンティア予算により共同利用実験のための各種実験装置,計測装置,光ビームライン等の整備,さらにPXRの有する高い空間コヒーレンス,エネルギー選択性,単色性,という特長を生かした位相コントラストイメージングの手法の確立やXAFS(X-ray Absorption Fine Structure)測定への応用方法の研究を始めとして,光源の利用方法についての研究を進めてきました.同時に,共同利用研究者に対するFELとPXRの安定供給を目指し,電子線形加速器の高度化の研究,特にビーム軌道とビームエネルギーの長時間変動の抑制を目標に,その振舞と原因の追究,加速器冷却水温度安定度の改善,ビームエネルギー及びビーム軌道の自動フィードバック制御実用化に向けた研究などを続け,ビーム性能の高度化と光源の安定化の研究を進めてきました.
 2006年3月には「理想的なX線像とその応用」「近赤外自由電子レーザー(FEL)とその活用」と二つのテーマで学術フロンティアシンポジウムを理工学部船橋校舎で開催し,招待講演,基調報告,一般講演など21件の講演が行われました.また,このシンポジウムの最後に今後の共同利用の進め方を主に,利用者間で意見交換が行われました.
 2007年2月には「近赤外自由電子レーザーとパラメトリックX線 利用研究の進展」と題して学術フロンティア(継続)のシンポジウムを理工学部船橋校舎で開催し,22の口頭講演と18件のポスター発表による研究発表及び報告が行われました.さらに利用者によりこれまでのFELとPXRを用いた研究の展開と今後の共同利用の展望について議論が交わされました.
 KEKとの共同研究は2007年3月で一旦契約期限切れとなりましたが,更なる共同研究の継続を日本大学本部に申請し,2007年4月から3年間の共同研究契約を結びました.これにより電子線形加速器の高性能化と,これを用いた放射光源の開発・高度利用を継続して研究することになりました.
 学術フロンティアは3年間の継続が2008年3月で終了となったことから,これまでの研究成果を発表するために「研究成果発表シンポジウム」を3月に理工学部船橋校舎で開催しました.特別講演を含め21件の口頭講演と25件のポスター発表による研究報告が行われ,最後に今後の光源を利用した研究の展望と可能性が議論されました.

 電子線利用研究施設のFELは,基本波長約1µmから6µmまで,さらにその高調波も利用すると300nm台の紫外領域にまでその利用範囲が広がってきています.また,赤外領域の基本波の光を非線形結晶に入射し高調波を得る実験により,従来FELの高調波として供給してきた可視〜紫外領域の光に比べて数桁大きな出力が得られることが実証され,これによりFELマクロパルス当たり最大で数mJとなる大強度の可視〜紫外の単色光が得られることから,さらに応用可能な研究領域が広がると期待されています.そして,すでにこの高調波の光を用いた利用実験も行われています.
 また,PXRに関しては2007年3月に加速器冷却系の改良による冷却水温度の高安定度化に成功したことから,電子ビーム安定度の確認のため80時間近い連続運転を行い,PXRの高品質化が実現したことが確かめられました.これによりPXRが固有に持つ空間コヒーレンスは,そのままPXRを利用するだけでも,位相(屈折)コントラスト透過画像の取得,また回折強調型X線透過画像の取得が実用の域に達していることが明確となりました.光源としての平均強度の問題は別にして,このような干渉性の高いX線源を、世界中の大型放射光施設においては光源からの長い光路と分光結晶を用い多大な労力の末に実現しているのとは対照的に,電子線利用研究施設では比較的小さな加速器と実験施設において容易に実現していることが大きな特徴であると言えます.ただしこの実現には電子線形加速器の高い安定度が極めて重要な役割を果たしています.この点で,電子線利用研究施設の電子線形加速器は世界最先端の安定度を誇れる状態にあると言えます.高い空間コヒーレンスを用いたX線透過画像撮影の実現とその応用は多くのX線研究者が注目しているところです.


日本大学電子線利用研究施設
〒274-8501 千葉県船橋市 習志野台 7-24-1
日本大学理工学部船橋校舎 物理実験B棟

Laboratory for Electron Beam Research and Application (LEBRA),
Nihon University, 7-24-1 Narashinodai, Funabashi, 274-8501 Japan.

(TEL) 047-469-5489 / (FAX) 047-469-5490
(E-mail) office@lebra.nihon-u.ac.jp


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